
ショートドキュメンタリーの魅力
8月3日(SUN) / 10:15
午前のプログラムでは、3つのテーマに分かれた短編ドキュメンタリー作品、計5本を休憩なしで一挙に上映します。
まずは、ドキュメンタリー専門配信サイト「アジアンドキュメンタリーズ」が手がけた注目の短編2作品『Love, Dad』と『バラナシ 死のホテル』。オンラインで高い評価を受けたこれらの作品は、人間の心に深く触れるテーマを繊細に描き出しています。
続いては、専修大学の学生たちが制作した2本のドキュメンタリー『神田らしいまちづくりに向けて』と『新たなる表現の場を求めて』。若者の視点から地域と表現について問いかけるフレッシュな作品です。
最後は、新潟県の佐渡島を舞台に、その自然や文化、魅力を伝える作品を上映します。島に息づく美しさと人々の営みを映し出し、観る者に深い感動を与える内容となっています。
ゲストには、専修大学客員教授であり映画作家でもある舩橋淳氏、そして長年にわたり佐渡の映像を撮り続けている映像作家・カメラマンの山本政次氏を迎え、トークセッションを実施します。聞き手はアジアンドキュメンタリーズ代表の伴野智が務めます。作品に込められた想いや制作背景など、ここでしか聞けない貴重な話が繰り広げられることでしょう。
Love, Dad
【日本初公開】原題:Love, Dad
2021年製作/作品時間13分
撮影地:チェコ共和国
製作国:チェコ共和国、スロバキア共和国
監督:ダイアナ・カム・ヴァン・グエン
妻と娘を捨てた男に向けて、娘が送るメッセージを映像化したアニメーション・ドキュメンタリー。主人公のダイアナはチェコで暮らすベトナム人2世。母と妹はベトナムで暮らしている。ダイアナは子どもの頃、チェコの刑務所に服役中だった父と何度も手紙のやり取りをして心を通わせていた。しかし出所後の父は、次第に母や自分と距離を置くようになる。2度の流産の後、授かった子どもは女の子だった。息子を欲しがっていた父は新しい家庭を持ち、そこに男児が生まれた。「もしも自分が男だったら」−−意味のない空想にとらわれるダイアナ。彼女は思いの丈を手紙にしたため、映像化した。憎むべきか許すべきか、逃げ去った父への思いを募らせる娘の、心の叫びが聞こえる。
【日本初公開作品】原題:BY THE RIVER
2020年製作/作品時間25分
撮影地:インド
製作国:オーストラリア
監督:ダン・ブラガ・ウルベスタッド
インドで最も神聖な都市とされるバラナシ(ヴァーラーナシー・ワーラーナシー)。ヒンドゥー教の信者にとって、この町で死にガンジス川で火葬されることは、輪廻からの解脱を意味する。町には解脱を望む人が死を待つためのホテルや解脱の家(ムクティ・バーヴァン)が複数ある。自殺は教義に反するため、人生の終焉を迎える滞在が40年にも及ぶ客もいる。死を待つ滞在者、遺体を焼く火葬業の男、1万人以上の死者を見送ったホテルの管理者、それぞれが死と向き合って暮らしている。ヒンドゥー教の宗教観や家族観を通して、生きることと死ぬことの意味について掘り下げるドキュメンタリー。聖地でカメラが捉えたものは、単なる儀式ではなく、信者たちの生き方そのものだ。
バラナシ 死のホテル
神田らしいまちづくりに向けて

取材撮影編集:安岡 美紀
明治期にいくつもの大学が創立し、学生街の拡大とともに書店やスポーツ用品店が増え、今も楽器店、カレー店などさまざまな業種が店を構える東京・神田。街の多様な文化を築いてきた住民は、互いに古くからの顔見知りであることが多く、地域の絆は強い。そんな神田の住民の意見を二分する再開発計画が進行している。道路整備により、街のシンボル的存在のイチョウ並木を伐採するというのだ。反対する住民グループは工事現場で、伐採直前の木に抱きついて抵抗。道路管理者の千代田区は、立ち入り禁止の仮処分を東京地裁に申し立て、事態は泥沼化。一方で「イチョウが全てなのか」と抵抗運動と距離を置く住民もいる。さまざまな意見が飛び交う中、妥協点は見つかるのか。価値観の多様性について一石を投じる作品だ。
取材撮影編集:菊池 来美
“本の街”として知られる千代田区神保町。中国語書籍専門店「局外人書店」は、文化講座や交流イベントなどを積極的に開催している。店主の超さんは「中国では政治的圧力で活動できなくなった」と打ち明ける。出版社を立ち上げた張さんは“中国では買えない本”を出版。政治的な内容でなくても、祖国では出版できないものがあるという。ドキュメンタリー監督の呉さんも、中国で発表の機会を奪われた一人。現在は彼らと同様に「やむなく」中国を離れて日本で暮らす“新移民”を取材している。発言や表現の機会を奪われ、社会問題について語ることさえ許されない中国の政治環境が垣間見える。神保町の書店街は、孫文や周恩来をはじめ、多くの中国人留学生を受け入れてきた。現在も増え続けている在日中国人コミュニティの取材から、中国という国を描いた意欲作だ。
新たなる表現の場を求めて
ー広がる在日中国人のコミュニティー

祈り紡ぐ島

監督:山本 政次
佐渡島、一万年の美しさを追って
佐渡島は、古来より信仰の島として知られ、今なおその伝統が息づいている。海とともに生きる人々は、大海原への深い信仰と畏敬の念を抱いてきた。「たらい舟」の漕ぎ手であり、作り手でもある金子啓次さんは、今朝も相棒の老犬とともに海へと漕ぎ出す。能楽や鬼太鼓などの伝統芸能も、神事と結びつき、祭りで神々への奉納として演じられる。佐渡の鬼太鼓の存在を全国に知らしめたといわれる「舟下の鬼太鼓」を現代に受け継ぐ、佐渡舟下鬼太鼓保存会。能の要素を取り入れた舞が特徴の潟上集落の鬼太鼓に独自の舞を加えたもので、その洗練された舞は、まさに神が宿るともいわれる。古より自然と共生する人々が紡ぎ続けてきた、祈りとともにある美しい暮らしの情景をみつめる。
登壇者紹介

舩橋 淳
映画作家・専修大学国際コミュニケーション学部客員 教授
1974年大阪生まれ.映画作家.東京大学教養学部卒業後,ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアルアーツで映画製作を学ぶ.処女作の16ミリ作品『echoes』(2001)がアノネー国際映画祭で審査員特別賞・観客賞を受賞.第二作『Big River』(2006)はベルリン国際映画祭.釜山国際映画祭等でプレミア上映された。2005年にはアルツハイマー病に関するドキュメンタリーで米テリー賞を受賞。
2012年「フタバから遠く離れて」で、初めてドキュメンタリー映画を監督。ベルリン国際映画祭でワールドプレミアされ、音楽を担当した坂本龍一とともに登壇。世界に向け、フクシマの窮状を訴えた。世界40カ国以上で劇場された。2012年度キネマ旬報文化映画第7位。同名著作『フタバから遠く離れて』(岩波書店)も出版。同スピンオフ作品「放射能 Radioactive」は、仏Signes de Nuit国際映画祭でエドワード・スノーデン賞を受賞。
2013年春、茨城県日立市を舞台にした禁断の愛のメロドラマ『桜並木の満開の下に』はベルリン国際映画祭へ正式招待された。主演は臼田あさ美、三浦貴大、高橋洋。製作はオフィス北野。近作には他に、小津安二郎監督のドキュメンタリー「小津安二郎・没後50年 隠された視線」(2013年12月NHKで放映)、「フタバから遠く離れて 第二部」など。監督作は、5作連続ベルリン国際映画祭へ正式招待という快挙を成し遂げた。2016年は、AKB48の姉妹グループNMB48のドキュメンタリー映画「道頓堀よ、泣かせてくれ! DOCUMENTARY OF NMB48」(2016, DCP, 120分)を、大阪を舞台に監督。香港国際映画祭、スイスVISION DU REEL国際映画祭、韓国チョンジュ国際映画祭などでプレミアされた。2018年史上初のポルトガルとの合作映画「ポルトの恋人たち 時の記憶」(柄本祐、アナ・モレイラ主演)を監督。柄本佑は、キネマ旬報最優秀男優賞に輝いた(他2作品と共に受賞)。日本のセクシャル・ハラスメント問題を問いかける「ある職場」は東京国際映画祭2020に選ばれ2022年春公開。今もアンコール上映が続く。元受刑者への社会の偏見・差別を描いた最新作「過去負う者」は、2023年大阪アジアン映画祭でワールドプレミアされ、国際的な映画ウェブマガジンPsychocinematography による2023年日本映画第1位。アジア映画の総合ウェブ批評誌Asian Movie Pulseによる2023年日本映画第4位に選出された。
著書は、「まだ見ぬ映画言語に向けて」(吉田喜重監督との共著、作品社)
「フタバから遠く離れて」「フタバから遠く離れて 第二部」(ともに岩波書店)など。
昨年 6 月是枝裕和、西川美和、深田晃司監督らと立ち上げた action4cinema 日本版 CNC 設立を求める会では副代表を務め、芸能 界でのハラスメント・性暴力一掃のための提言活動を続けている。

山本 政次
佐渡の魅力を撮り続ける映像作家・カメラマン
1976年、新潟県新潟市生まれ。大学卒業後、システムエンジニアを経て、名古屋と佐渡市でアナウンサーを歴任。2014年に独立し、スタジオママクワンカ開業。郷里の佐渡島でトキ、棚田、郷土芸能など、佐渡島の自然と歴史、そこで共生する人々の姿を追いかけている。映像撮影・ドローン空撮・映画や番組ロケなどををライフワークに、佐渡島、新潟県内を拠点に活動している。
【映像作品受賞歴】
2021年 第1回新潟ふるさとCM大賞 準グランプリ受賞
2022年 農林水産省「サステナアワード2021伝えたい日本の”サステナブル”」生物多様性保全賞受賞

伴野 智
株式会社アジアンドキュメンタリーズ 代表取締役社長 兼 編集責任者
2018年8月に動画配信サービス「アジアンドキュメンタリーズ」を立ち上げて以来、ドキュメンタリー映画のキュレーターとして、独自の視点でアジアの社会問題に鋭く斬り込む作品を日本に配信。ドキュメンタリー作家としては、映文連アワードグランプリ、ギャラクシー賞などの受賞実績がある。