
街角の盗電師
8月3日(SUN) / 15:25
【日本初公開作品】
原題:Powerless
2013年制作/作品時間82分
撮影地:インド
製作国:インド、アメリカ
インドの工業都市・カーンプルで繰り広げられる街の〝盗電師〟と電力会社との攻防を描いたドキュメンタリー映画。人口約280万人が電気を求めているはずなのに、実際の契約者は50万人。しかも、滞納者ばかりでまともな消費者が少ないという現実。それはなぜかというと、実際は誰もが電気を盗んでいるのです。活躍するのは、街の天才〝盗電師〟。彼は「世のため、人のため」、停電が起きるたびに電線に細工をして、違法配線でタダで電力を使えるようにしてくれるのです。苦境に陥る地域の電力公社に最高責任者として赴任してきたのが、敏腕の女性官僚。果たして軍配はどちらに上がるのか?
監督:ディープティ・カッカー、ファハド・ムスタファ
<作品の見どころ・社会問題提起>
◆インドの電力不足・送配電ロスは、地球規模の課題◆
人口が増加しつづけるインドでは、国民の5分の1に近い約2.4億人が電気のない生活を送っています。本作で描かれているインドの社会問題である電力事情・電力不足は、この街だけの課題ではなく、インドが直面している急速な経済発展とともに需要が増大し供給が追いつかない、インフラ問題の縮図といえます。この電力不足を発生させる原因の一つに挙げられるのは、発電した電力を届ける間に起きる送配電ロス。インドの送配電ロスは約28%で、日本の4.7%、中国の約7%と比較すると、突出して高いのです。送配電システムの保守や整備といった技術的問題によるロスもありますが、違法配線による盗電(電機窃盗)や、使用した電力量を測るメーターの改ざんなどが原因です。たびたび停電が生じるインドの不安定な電力環境は、経済発展を阻害するだけでなく、社会に不正を生む土壌を放置させ、貧困の悪循環を生み出します。さらに、インドのエネルギー政策や電力問題は、温室効果ガスの排出量の抑制など企業に求められる社会的責任にもつながり、気候変動など、地球規模の問題に直結していき、持続可能な社会のあり方やサスティナブルな未来を考えさせられます。
予告編
登壇者紹介

宇多丸(ライムスター)
ラッパー/ラジオパーソナリティ
1969年東京都生まれ。ヒップホップ・グループ「ライムスター」のラッパーで、TBSラジオ(月~木)の22時から生放送されている、ワイド番組『アフター6ジャンクション2』を担当するラジオパーソナリティ。1989年、大学在学中にMummy-Dと出会い「ライムスター」を結成。日本ではまだヒップホップ/ラップが浸透していない中で、「日本語でラップをするための方法論」を模索、曲作りとライブ活動で試行錯誤を繰り返して、今日にいたる日本のヒップホップシーンを開拓/牽引してきた。また2007年にTBSラジオで番組が始まると、ラジオパーソナリティとしてもブレイク。中でも愛ゆえ本音で語りおろす映画評は、現在も続く人気コーナーに。近作にライムスターアルバム『Open The Window』(2023)、単行本『森田芳光全映画』(2021)ほか。

小西 公大
東京学芸大学准教授
1975年、千葉生まれ。東京学芸大学・多文化共生教育コース准教授。専門は社会人類学、南アジア地域研究。インドや日本の離島(佐渡島・隠岐島)をフィールドに、アートやフォトグラフィー、音楽のもつ力を通じた社会空間の創造に関する研究を進めている。「これからの時代を担うのは変人である」をモットーに、変人類学研究所を立ち上げる。変人學会理事。空間コンピューティング時代の人類の知覚・認識と可能性を模索し実装を目指す拡張人類学研究所メンバー。僕らの社会にゆらぎや余白を生み出し、包摂的で創造的な社会に変えていきたいと、日々もがいている。
主な著作に、『ヘタレ人類学者、沙漠をゆく:僕はゆらぎ、少しだけ自由になった』(2024年、大和書房)、編著『そして私も音楽になった:サウンド・アッサンブラージュの人類学』(2024年、うつつ堂)、共著Jaisalmer: Life and Culture of the Indian Desert, 2013, D.K.Printworld、共編著『フィールド写真術』(2016年、古今書院)、『人類学者たちのフィールド教育』(2021年、ナカニシヤ出版)、『萌える人類学者』(2021年、東京外国語大学出版会)『インドを旅する55章』(2021年、明石書店)など。